ニューカテゴリー、「インテリア&家具」の中から一つアイテムをピックアップして掘り下げていきたいと思います。
本日のピックアップは建築やデザイン界の方ならご存知のイタリアデザイン界の巨匠「アキッレ・カスティリオーニ」です。
Achille Castiglioni
アキッレ・カスティリオーニ|1918 – 2002
1918年イタリア・ミラノ生まれ。ミラノ工科大学建築学科を卒業後、1944年に兄であるリビオ・カスティリオーニ、ピエール・ジャコモ・カスティリオーニの建築事務所に参画。
デザイナーとして主に都市計画や建築計画、工業デザインを手掛ける。
兄リビオの独立後、家具、照明などのインテリアデザインを多く手掛けるようになり、1962年のFLOS社設立の際には同社のデザイン部門の責任者として招聘されます。
FLOS社から新素材コックーンを用いた照明「ヴィスコンティア」を発表し、その後も「アルコ」「タッチア」「トイオ」など、従来の発想に捕らわれない斬新な切り口による傑作を多数世に送り出します。
1956年にはADI(イタリア・インダストリアル・デザイン協会)の設立に参画し、文化活動にも積極的に参加。1969年からはミラノやトリノの工科大学で教鞭を執り、後進の育成に尽力し、1986年にはロンドン王立美術アカデミーにおいて工業デザイナー協会の名誉会長となります。通算で7つのコンパッソドーロを受賞し、イタリアにおける革新的工業デザインの先駆者であり、近代デザイン界に多大な影響を与えた一人です。
「デザインというのは、一つの専門分野であるというよりは、むしろ人文科学、テクノロジー、政治経済などにおける批評力を個人的に身につけることからくるある態度(世界や仕事に対する取り組みから)のことなのです」
アキッレ・カスティリオーニ
今も語り継がれる傑作
フロス創設のきっかけにもなったシリーズ ヴィスコンティア
弧を描く骨組みが美しく張り出した、優雅なペンダントランプです。
フロス社創設のきっかけにもなった“COCOONシリーズ”は、1960年にアキッレ&ピエル・ジャコモ・カスティリオーニが「VISCONTEA」「TARAXACUM」を、1961年にはトビア・スカルパが不朽の名作「FANTASMA」を発表。
米国で開発されたスプレー吹き付け式の樹脂コーティング技術“COCOON”が用いられており、複雑な造形を可能にしています。
MoMAパーマネントコレクション選定品です。
大きな弧を描くオブジェのような照明 アルコ
カスティリオーニが手掛けたアルコは、大理石のベースに大きな弧を描くアームとアルミニウムのシェードのバランスが美しい照明。1962年に発表して以来、世界中で愛用されているフロス社を代表する近代照明デザインの名作。MoMAパーマネントコレクション選定品です。
アルコとはアーチを意味し、重厚な大理石ペースから美しいステンレスのポールが華麗なアーチを描いています。二重シェードの外側を回転させると光の方向を変えることができます。
電源はコンセントから供給され、好きな位置に配置することが可能なペンダントライトとしての役割も果たすスタンドです。
1962年の名作「アルコ」は、そのフォルムが非常に特徴的で有名です。アイデアの元は、「天井に孔を開けないですむペンダントランプを作ることは可能だろうか?」という具体的な要請に対する解答であったと言います。 アーチで描く街灯にヒントを得て、2メートル離れたところに置いた大理石の直方体から「スティールのアーチを投げかけてテーブルの真ん中に光を持っていくことにした」のです。
“If you are not curious, forget it.”
カスティリオーニのデザイン哲学を表す象徴的な言葉、“If you are not curious, forget it.”
「もし興味がないなら、そんなことは忘れてしまえ。」
コチラは、アキッレ・カスティリオーニのスタジオ。
このスタジオは2006年から一般公開を開始し、20011年より財団として活動を始めています。
ミュージアムというよりは、オープンスタジオという感じで、様々な作品やインスピレーションを受けたモノが所狭しを置かれています。
彼がいかに好奇心を持って日常生活の中にある無名のオブジェクトに機能性や美を見つけ、独自の視点から形に落とし込んで、モノに命を与えてきたのか、またどのような発想、意図から制作に至ったのか、スタッフが解説してくれます。
本当にどこでもある身近なものからインスピレーションを受ける様は、好奇心の塊でないと見えてこない子供の心そのものです。
ミニマリストや断捨離という言葉とは相反するこのスタジオは、見ているだけでも楽しくなる宝箱。
アキッレの目を通すと、魔法がかかったようにモノに命が吹き込まれ、生き生きと踊り出すようです。
静かにして!
TACCIAとは、「静かにして!黙って!」というイタリア語です。
この照明の名前になっています。
ネーミングもユニークです。
ギリシャの神殿の柱ようなベースに、象徴的なボウル状のリフレクターで構成された、カスティリオーニの名作照明です。光が反射することで拡散する構造になっており、幻想的な雰囲気を作り出してくれます。
1962年発表のオリジナルのシェードは透明な樹脂ではなくガラス素材でした。当時、素材をガラスにした理由は、白熱灯から放出される熱が樹脂を変形させるため。
最後に
筆者は、実際にアキッレ・カスティリオーニ氏にお会いしたことがあります。小柄で愛嬌のある方でした。
日本から来た若者にも分け隔てなく握手をしてくださるカジュアルさに心を打たれました。
巨匠と言われる方の中には近寄り難い方が多い中で、比較的イタリアの巨匠と言われる方は本当に気さくな方が多くて驚きます。
そして、プロダクトは大変よく知られていてもその思想や背後にある時代背景や方法論まではなかなか知られていないことが多く、「タッチャ」にしても「アルコ」にしても形状だけが人の視覚に残っているのではないかと思います。
私は、学生時代をイタリアで暮らし、イタリアのデザインに触れてきたわけですが、見慣れたプロダクトでもその背後にある思想を知るともっと面白く、もっと感銘を受ける逸品になります。
人の感情に語りかけ、物から感銘を受けるものに出会ったことはありますか。
そんな逸品をご紹介し、多くの方にもこの感銘を味わっていただければ大変嬉しいです。
彼らのような才能からインプピレーションを受けて、これからも、モノに命を吹き込むような素晴らしいモノづくりを目指したい、また紹介していきたいという意欲に掻き立てられる心から尊敬する建築家・デザイナーです。
ヒロミ・キム
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